「考えない、感じることについて」 ~大切な人がうつ病になったら~⑨



◆⑨:すべて1度きりでしかないはずなのに◆




――お二人は、同時にうつ状態になり、ふたりで寝込むようなことはありますか?



メムさん

それは、ないですね。

どっちかが辛くて限界だと、それより軽い方が動けてる気がする。



――なるほど……夫婦というのは、うまく補い合うものなんですね。仲の良いお二人

ですが、喧嘩されたりすることもありますよね?



メムさん

よっぽど許せないこと以外は喧嘩しないですね。

嘘つかれたとか……話せって言ったのに、話さないとか。



――なるほど。それは例えば、どんな内容でしょう? ……教えていただける範囲で。



夫さん

……まぁ少なくとも、些細なことではなかったかな、あれは。


メムさん

うん、あれは些細なことではなかった。

些細なことだったら、『なんで言わないのよ』『ごめんなさい』で終わるので。


夫さん

その時はもう、気を遣いすぎて……これは言えない、って自分の中で抱え込みすぎて。


メムさん

旦那は、すごく素直に受け入れる。言われたことを、良くも悪くも全部受け入れちゃう。

……私、けっこういろいろ突っ込んで言ってたんだよね。


夫さん

うん。ストレートに言ってくるから、それを真に受けて、悩んじゃう感じで。

最初はそんな感じだったから、どんどん言えなくなって、っていうのが当時はあったかな。毎回ズバッと、言ってくるから……


メムさん

反論しても無駄だな、って思っちゃうんでしょ?(笑)


夫さん

そうそうそうそう。

だからそれがうまく消化できる時は、いい調子の時かな。


メムさん

ダメな時はちゃんと言ってくれるようになったので。いいことだと思ってる。


夫さん

それとか、出勤のときに『なんで仕事なの〜休んで〜』って言われて……

それを真に受けて、どうすればいいんだって、すごく悩んでた。



――それは……仲がいいですね。(笑)



夫さん

最近はそれを

「早く帰ってくるようにするから、いまは寝てな〜」って、言えるようになった。


メムさん

「わかった、それまで寝てる〜」って私も返して。(笑)

そんなだから、よく言われるのが、『あなたたちは新婚のままだね』って。


夫さん

結婚してから四年も経つって気がしないんだよね。


メムさん

早いよねえ。



――私の周りでは、言いたいことがあってもなかなか言えないで、感情を溜め込んで……

本当は仲良くしたいのに、いがみ合っている夫婦関係をよく見ます。



メムさん

『なんで言わないんだろう?』と思いますよね。言えないんですかね?



――それは……じっくり話をしたくても、あまりにも仕事で疲れきっていて、また明日も

朝早くから仕事に行かないといけない。だからとりあえず家庭内のことは先送りにして。

そんなことが繰り返されるうち、いつしか取り返しがつかない状態まで関係が悪化して

いた、みたいな感じかと。……自分の場合は。



メムさん

話せないなら、メールや手紙でいいんじゃね? って。



――なるほど……(笑)



夫さん

この辺りだよね。(笑)

この辺りのサバサバしてるというか、筋の通った感じだよね。



――はい、メムさんの<大事にすべきもののブレなさ>はすごく学ぶところが多いと

思います。自分が今までの人生で、本当に大事にすべきものを優先できてきたかというと、できていなかったように思います。



メムさん

それでいうと私、

『自分はどっかに所属するとダメになる。今の感覚をなくす』って思ってるんです。



――なるほど……組織などに所属していくうち、少しずつ自分の感覚がすり減っていく

感覚は、なんとなくわかります。



メムさん

都会だと余計に難しいのかな……1人の時間って、とれないです?



――細切れにしか、とれないような気がします。


……話が逸れるかもしれませんが、

メムさんのお話を聞いていると、どうしてだか子供の頃のことを思い出すんです。

青空を見上げるだけで、震えるくらい感動できた子供の頃が、自分にもあったな、と。

でも、歳をとるにつれて社会に出て、様々な人と関係を持ち始めて、徐々に他人を

優先するようになり、自分の感覚を後回しにするようになる。



自分が苦しい、悲しいことがあっても、それは優先してはいけない。それこそが

<子供から大人になること>だと教わる。ただ、それを意識的にコントロールしていた

つもりが、体調を崩したりして自分ごとの優先度を上げなくてはならない、

となったときに、すでに自分が<自分を優先できなくなってしまっている>ことに気づく。


自分が危機に瀕しているとわかっていても、『会社が……』とか、『あの人の機嫌が……』とか、本当は全くどうでもいいことを優先し続けることを止められなくて、自分を後回しにし続けてしまう。


今日、話していて感じたのですが、メムさんが学校から<逃走した日々>は、ある意味では

<闘争の歴史>でもあったのかなと。逃げて逃げて、絶対に逃げちゃいけない時でも逃げ出して、自分を守り抜いてこられたんだろうなと。


ドラクエのコマンドで<にげる>ってありますよね。逃げる選択肢は、いつでも選べる、

いちばん情けない選択肢だと思っているけれど、実はそう簡単には選べるものではない。

本当はみんな、<逃げないんじゃなくて、逃げれなくなっているだけ>。


そう考えていくと、メムさんは幼いうちから、自分にそぐわない価値観から

<逃げられる強さ>を持っていたんだろうな、と。

逃げられない日常を繰り返し続けるうち、少しずつ自分の感覚を失い、他人の都合を

優先しすぎてしまう……それに抗う強さを持たなくてはいけないと、改めて思います。




メムさん

自分の感覚を確かめることを、私は日常でやってる……

歩いていて、木が綺麗だな、とか。お日様ぴかぴかだね、とか。

匂いとかも、全然変わりますよね。




――函館の街を感じることを通して、自分を確かめているのですね。いつも通る道でも、

同じ風景は2度とないはずですよね。季節が変わり、吹く風も、咲く花も、すべて1度きりでしかないはずなのに、何度も繰り返しているうちに、その違いに気づくことが困難になってきます。そしていつしか、自分を感じ取れなくなってしまう。



メムさんは、毎日毎日、その違いを感じ分けられているように思うんです。

それは、もともとのパーソナリティに付随している才能なのかもしれません。



メムさんのパーソナリティは、様々なことを感じてしまいすぎ、社会的な所属を困難に

させていたかもしれません。でも、そうやって日々を誠実に感じ取ることができたから

こそ、自分を見失わず、大切な人に危機が訪れた時、目の前にいる人をきちんと感じ取り、『何もかも捨てていいから、あなたに生きていてほしい』と言うことができたのではないでしょうか。




その⑩へ、つづきます。




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