◆⑧:うちの妻は、すごいよな。◆
――夫さんは、移住されてから体調は良くなったのでしょうか?
夫さん
一回ひどいことになったから……
あれを考えると、なんて言ったらいいんだか……
メムさん
仕事でトラブルというか、上司との関係性がちょっと、って時があって。
仕事が終わってから、深夜まで5時間も6時間も説教する上司だったんです。
――それは、ひどい。
メムさん
あの時は、ぜんぶ旦那が悪いってことになってたんです。
ちゃんとやらないから悪いんだ、って。説教の仕方もねちっこいんですよ。
どう答えても、怒られる方向に持っていく。
ストレス発散に使ってるんじゃないか、っていうくらい。
あの時は本当、どん底までいきそうだったよね。
家に帰ってきてから、旦那が悔しさで暴れたこともあったりして。
もう限界だったのがわかったんで、『仕事なんか、どうとでもなるからやめれ!』
って言って。で、有給使って休みながら、転職して新しい職場に移った感じです。
――どんなブラック企業でも、辞めるのはすごくエネルギーがいりますよね。
今後の生活費をどうしよう、とか。
夫さん
そういった不安がつきまとうから、『我慢しないとダメだよなぁ……』
って、限界が来るまでずっと悩み続けて。揺れる感情との、戦いですよね。
メムさん
そんなの、倒れた方が困るじゃないですか! だから私はその時は、
『生活費なんて、後で考えればいい』と思って、辞めるように言いました。
――仕事はアイデンティティと強く結びついていることも多いため、辞める決心がなかなかつかない人も多いようです。
メムさん
アイデンティティなら、<私の夫>ってのがあるじゃないですか。
それを否定するんですか、って思います。
――仕事がなくなる話と、命がなくなるかもしれない話なら、命の方が大事に決まっている……私はメムさんのその考えに非常に共感します。
ただ現実として、そういう選択肢をとれず、過労死してしまう人は多いです。仕事を辞めたくてもパートナーから「生活費をどうするつもりなの? ちゃんと働いてよ!」と強く求められる方も多いようです。
夫さん
そういう意味では……うちの妻は、すごいよな。(笑)
危機に陥った時の、決断力。

メムさん
生活の不安はあるんですけど、でも、『公的機関に相談すればいいんじゃない。
いざとなれば生活保護でもいいんじゃない』って。
仕事なんて、探せばありますからね。
――はい……ですが、繰り返しになりますけども、仕事と命を天秤にかけて、仕事を選んで命を落とす人は大勢おられる。
メムさんがそうやって、<自分が大切にすべきものの芯をぶらさないでいられる>のは、
なぜなんだろう、と。そこが知りたくて今回は、函館までお話を聞かせていただきに
来たんです。……夏季休暇の旅行も、兼ねてますけど。
メムさん
なんでだろう。まあ……なんとかなる、と思って。
夫さん
なんだろう……ある意味、楽観的なんだろうか?
メムさん
楽観的というか、信用も信頼もしてるんですよ。
『今はダメでも、動けるようになれば、なんとかなるだろ』って。
そのためには休養が必要だから、休めば、って。
もし休まないで余計に体調を悪くして、
復帰するまでに何年もかかったりしたら、その方が辛いじゃないですか。
――休むことで、周囲の目が気になる人も大勢います。
メムさん
他人は他人、自分は自分、です!
私は、他人の目を気にしてるとキリがないことに気づいてから、楽になった感じですね。
――わかるのですが、皆が皆、心の底からそう思って行動できるかは……難しいことです。