◆⑥:言葉にできないけれど、確かにある◆
――事前取材でメムさんは『函館の街から力をもらっている』と、おっしゃってましたよね。

メムさん
ここに引っ越してくるまでは、考え方がガッチガチだったんで。
それがゆっくりと緩和してきたのが、函館にきてからですね。
なんて言うか、人とではなくて、街とつながっている感じです。
ちょっと、抽象的かもしれないですけれど。
――メムさんは、神様とお話ができると聞いています。それには、函館の街が重要である、とも。
メムさん
そうですね。それこそ、神様と話せるようになったのが函館の街に来てからなので。
小さい頃も、話せたかもしれないんですけど。
……こういう話をすると、引いちゃう人もいると思うんですけど。
――私は特定の宗教や神様を信仰したりはしていません。ですが、これはメムさんに
とっては真実のお話だと思いますので、ぜひ聞かせていただきたいです。


メムさん
それでいうと今日も、
『濃霧で飛行機が着陸できなくて取材ができないかも』って連絡があったから、
神様にお願いしましたもん。『私たちも動くから、晴れさせてもらえないかな』って。
その<動く>、が、私たちが空港まで車で迎えにいく、ってことだったんで。
――あ、そうだったんですね。函館の市街で待ち合わせだと聞いていたのに、空港まで
わざわざ迎えに来てくださっていたので『あれ……?』と思ってました。メムさんの……
というか、神様のおかげで、我々は無事に函館にたどり着けたのかもしれない、と。
メムさん
はい。今朝、旦那に『準備してすぐ出るよ!』って。
それで速攻、家を出ました。そしたらどんどん、晴れてきたので。
『ありがとうございまぁす、このまま晴れさせてくださーい』って言って。(笑)
――夫さんも急遽、対応してくださったのですね。
夫さん
うん。そうですね。
メムさん
いつものことって感じで。(笑)
以前も、『今日はお家でのんびりしよっかー』って言ってた直後に、
『あ、やっぱり今日、ばあちゃんとこ行ってもいい?』って、
そのまま片道125キロの距離を、車で連れて行ってもらったり。
――なるほど……夫さんは『正直そういうの、大変だよ!』ってなったりはしないんですか?(笑)
夫さん
いやぁ……無理だと思ったら言いますよ、もちろん。体調とかもあるし。
メムさん
今日は無理、ってなったら、じゃあ今度にしようね、
って言ってくれるんで。そうじゃないと振り回しちゃう。
――事前取材で、夫さんもメムさんに対して不思議な力を確かに感じる、とおっしゃって
おられていましたが、どのような時にそれを感じますか?
夫さん
うーん、言葉にしづらいなぁ……
――……
夫さん
うーん……
――……言葉にはできないけれど、確かにある?
夫さん
うん。
――でも、やっぱり言葉にはならないんですね。
夫さん
<事象>だもんねぇ。
もとから、そういうのを否定するわけじゃないんで。
もちろん、すべてを手放しで肯定するわけでもないし。だから、割とナチュラルな感じ。
メムさん
のめり込みすぎないで話を聞いてくれるのが、旦那のいいところ。
夫さん
完全に盲信してるわけでもないし。絶対にこうだ、ってのもないし。
――ある種の自然な納得感がある、という感じでしょうか。なんというか、すごい信頼関係を感じます。
メムさん
うちのばあちゃんが言ってたのは、旦那は『ご先祖様が引き合わせた相手だ』って。
――なるほど……メムさんのおばあさまも、不思議な力があったんですよね?
メムさん
ちょっと修行した人なんで。仏教の方の。
ばあちゃんのとこ行くと、不思議体験ばっかりで……
ばあちゃんはお寺の管理人してたんですけど、本堂にあげてたろうそくが、
どろっと溶けて観音像の形になったのを見たりとか……そういう環境にいて、
いろんなことを疑わないで見れるようになったのかもしれない。
ばあちゃんからは、いろんなことを教わって。
『水周りは綺麗にしなさいよ、トイレ掃除は修行だから』って。
だから、掃除ができないとそわそわする。
――掃除は、修行。なるほど……
メムさん
ある時、すっごく体の調子が悪くて、どうにも気持ち悪くなったことがあって。
なんでだろう……ってあちこち調べたら、旦那がお風呂の栓を抜き忘れてて、
水を数日、流さないままだったんですよ。それで、家中に不浄がたまってたんです。
で、塩まいて水かけて徹底的に綺麗にして、自分も洗って……それでやっと落ち着いて。
『なんで流さなかったん!』って旦那に言って。
夫さん
忘れてたんだな、あの時な……
――なるほど……メムさんは、おばあさまから色んな教えとともに、不思議な力を
受け継いだのですね。……あ、あの建物が、旧函館区公会堂でしょうか。
メムさん
あ、見えてきましたねぇ、そうですそうです。
――なんだか、愛らしい色の建物ですね、行ってみましょうか。
