【特集取材】うつサポートは「搾取」か、「献身」か? ⑨

最終更新: 2018年7月12日

◆⑨:「病気を治すのがいまの僕の<仕事>なんだ」◆


――先生から、逆に退院の条件を聞かれたのですか?



夫さん

それは、「退院した後、あなたは何のために生きていくのですか」

という問いに近いのかな、って。それで、僕が答えたのは、症状のことも

もちろんあるんですけれども、この夫婦関係がボロボロになってきたのを、

どう立て直すか、ってことに気づくことだと思うと。……うん。


退院しても同じことをしてるんじゃなくて、退院したら、

この夫婦関係ズタズタになってるのを、どう……どうしたら戻せるかって

いうのが僕のテーマだったんですよ、デイケアとかやってるときも。

……それでまぁ、家事をやっていくことなのかなぁって。


これ、当時のFacebookに、

そのことについて書いた記事が残ってたんで、持ってきたんです。







思い起こせば、10月に今回の入院開始時には「私は何をもって退院とするか」という答えが見つからず途方に暮れていましたが、最終的にはかなり明確に「精神的な落ち着き、自分の精神的そして肉体的な限界を知り自分で調整できる、そして一番大切な鬱で壊れかけた夫婦関係を修復し維持する」と定義することが出来ました。


これらは健康な人から見ると当たり前のように見えますが、私の鬱が進行していっている時は身体的な自覚症状は見えますが、心が壊れていって妻など身近な人たちを傷つけているという事についての記憶が無いのです。いつの間にか最悪な関係になっていました。多分、鬱を患うと配偶者が離婚を切り出すというのはこういう事なんだろうと推察します。ただ、私の妻はありがたいことに当惑しつつも私を最後まで見捨てなかったので、その事に感謝してもし足りません。






――退院した先、未来のことを考えたときに、傷ついた「ご夫婦の関係」を取り戻す、再び育んでいきたいとお考えになられたから、家事をされるようになったということですね。



夫さん

そう。それと他に、僕の中でまだあんまりできてへんな、という段階やけど、

彼女が何か言ってきたときに、まず否定的な言葉で返さない。っていうのを

今ずっと、心がけて……


……初めていうな、これ。



妻さん

うん……そやね。

穏やかに聞き返してくれるようにはしてはるな、って思ってたけど。


夫さん

僕は、2014年くらいまでは、妻に何か言われて、

それが間違ってると思ったときは、すぐ否定的な言葉を出してたような気がする。

だけど、それやると、ネガティブな印象しか抱いてもらえへんし、

僕自身をネガティブにさせてるよね、って思って、そういうことを

まず使わないでいこう、それと家事かな、っていう……



――仕事一筋で生きてこられた夫さんに、方針転換といいますか、考え方の変化があったのですね。



夫さん

そうしなあかんと。そうせんと妻の「1秒も一緒にいたくない」

ということが具現化してしまう。そうしたら、それは本意じゃないので。うん。

それを直すためには、まずできることって、家事とかくらいしかないから、

それからはじめようかな、と。



――家事をされてるときは、どのようなお気持ちなんでしょうか?



夫さん

「めんどくさいなぁ。

また今日も晩御飯なんでもいいって言われたしなぁ」みたいな。

そういう気持ちというか。聖人君子じゃございませんから。



――(笑)



妻さん

つくりたくなかったら私の分はいいよ、って連絡するんですよ私は。

残業で帰ってきて、ご飯つくるの大変やったら個食でいいし、

ご飯だけ炊いといて、とか。


夫さん

でも、やってるよね。


妻さん

つくってくれてるよね。

生ゴミも、玄関においといたら捨ててくれるようなったよね。

……掃除洗濯は、まだできへんねんね?


夫さん

んん、あれはやらんでええ。……あのー。どうでもええ話やけど、

夫婦間で、掃除というか、清潔さに対する感度が違うんですよ。



――はいはいはい。(笑)同居している人との家事分担で、必ずと言っていいほど揉めるやつですね。



夫さん

ありますよね、そうそう。

彼女が清潔だと思うリミットと僕のリミットが全然違うので、

やっても仕方ないのよ。「けっきょく掃除できてへん」って言われるんで。

それなら効率よく、おまかせしようと。



――感度が合いそうなところだけやる、と。



夫さん

合うところはひとつも無い……

ああ、お風呂掃除や。浴槽のザラザラぐらい。あれは僕やってる。



――なるほど……(笑)私と彼女もそんな感じで、あれこれ揉めながら家事をやっています。



――色々とお話を聞かせていただいて、ありがとうございます。

ここで改めて、夫さんにお聞きします。今までのご自身の人生を振り返っていただいて、

<夫さんにとっての幸せ>とは、どういうことなのでしょうか?



夫さん

それはもう<仕事>……ですよね。

僕にとっての幸せってけっこう、仕事と同期してる。

……療養後は、自分の病気が回復していった成果と、同期してるけどね。



――私も、このグラフを見て思ったのは、

「夫さんは体調がどうあろうと、仕事が順調でなかったら、幸せだとは感じられない人」

なんだと思いました。逆に言うと、「仕事が順調なら、ちょっとくらい体調を崩してても、構わない方」なんだな、と……



夫さん

まさしくそうやと思います。



――仕事が順調だと、どうして幸せなんでしょうか?



夫さん

仕事が好きなんですよ。給料とは別に、

自分が必要とされることが好きなんですよ。

だから……うーん……どう言ったらいいのかな。

必要とされているから自分の存在価値がある。そこに答えれてると幸せやし、

答えられへんと、それは不幸になっていくし、という。


決して、収入が上がったら幸せかというと、そうではない。

収入で言ったら、幸せ度は最低の、2010年から12年が一番、

良かったですからね。でも、今の方が収入は低いけど、幸せ度は高い。



――夫さんにとって、収入と幸せは比例していないのですね。夫さんにとっては、お金を

稼ぐより、もっと仕事の本質的な、人のために役に立ったりすることや、

貢献できることが、幸せである、ということでしょうか……?



夫さん

……それに加えて、言っておきたいんやけども。

さっき妻が、僕が「失業手当は僕の給料や」って言ったという件なんですが。

正しくは、「病気を治すのがいまの僕の<仕事>なんだ」って言ったの。


妻さん

……そうやった?


夫さん

うん。なので、僕はデイケアとかも<仕事>だととらえて、

それで真面目に全部リハビリも、ほぼほぼ休まず、全部いってた。



――デイケアの辛さに耐えれたのは、それが夫さんにとっての<仕事>……つまり、

<他者に貢献できること>に繋がっていると思えたからこそ、モチベーションを保って

頑張れた、ということでしょうか。



夫さん

うん。だから、

「失業手当や傷病手当は、自分の<仕事>の給料なんだ、

もらってるからには、しんどいリハビリも、モチベーションあげていくんだ」

みたいなつもりで言った。


妻さん

あーそっか。そん時、単語やったからね。詳しく言ってなかった……



――夫さんとしては、「お金が入ってくるんだから文句を言うな」と言いたいわけでは

なかったのですね。リハビリを、仕事……<他人に貢献すること>の途上にあると位置付けているからこそ、「それに誇りを持って取り組んでいくんだ」と言いたかった、と……



夫さん

うん……て、理解してなかったの、あなた?


妻さん

できないよ、あんな、あんな言い方で。

あの時はだって、ドヤり顔で言ってたもん。「俺の収入はゼロじゃないんや、

今まで社会保険払ってきたからこそ。だから給料や」って。


夫さん

違うよ、そんなこと言ってないよ。



妻さん

っていう風に……


夫さん

言ってないよ。


妻さん

覚えてないの?


夫さん

覚えてないっていうか、あなたこそ僕の言ったこと覚えてないの?



――まぁまぁまぁ……私もライターの端くれとして仕事をして、

日々感じるのですが、<言葉とは不完全なものだ>と……

伝えようと思って、頑張って言葉にすればするほど、

本当に伝えたいことと、どんどんずれていってしまったり……



夫さん

そう。端的に伝えようとすると、今度は本当のところ、

細かいディティールがあるんやけども、それが伝わらなくなったり……


妻さん

…………





その⑩へ、つづきます。



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