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【特集取材】うつサポートは「搾取」か、「献身」か? ⑤

更新日:2018年7月9日

◆⑤:自尊心なのかもしれない◆



――……それではこのグラフに、<夫さんが予想する妻さんの幸せグラフ>を

合わせたものを見ていきながら、夫さんも交えて振り返っていただこうと思います。

こちらが、そのグラフです。





――オレンジ色が、先ほどまで見ていた妻さんのグラフで、

緑色が、夫さんが妻さんの幸せを予想したグラフです。



妻さん

……2004年、真逆やね。なんで私が落ちてるときに上がってるの?


夫さん

……わからん。わからんというのは、僕から見た感覚やから。



――……まずは、最初の3年目のあたりから、おうかがいさせていただきます。

ご結婚されてしばらくは、夫さんは徐々に幸せ度は下がってきていたのではないか、

と考えておられたのですね。



夫さん

これね、僕、いろいろとIT関係の自営業をやってたんですけど、

やっぱり収入が少なかったから、それで妻は、苦しんでたんちゃうかなぁ、

ストレスなってたんかなぁ、というラインです。



――実際は、妻さんは収入について、問題にしていなかったようですね。



夫さん

そうそう。そう……そうみたいですね。



――そして、先ほどお話にあった通り、2004年で大きくずれてきて……奥さんが不妊治療をされている時は、幸せだったのではないかと。





夫さん

……かと思ってました。それはなんやっていうと、僕は彼女の……

話きいて、いまわかったんですけども、不妊ということへの評価の違いです。

……うん。で、僕としては別に大した問題じゃなかったんですけども、

この差がここに、ぼーんと出てきてるんじゃないかと。



――……なるほど……



妻さん

……子供ほしいって言ったん、覚えてる?


夫さん

うん、知ってる。グラフ書いてる時、忘れてたので……評価ができてない。



――私自身、とても身につまされるな、というか、すごくこう……

隣にいる人との認識は、合いにくいんだなと思いました。

夫さんとしては、そこまで深刻だとは、わからなかった。



夫さん

そう。で、たぶんその当時はわかってたんやと思います、なんとなくわかってた。

ただ、その、彼女が子供ができひん。だけど、うん……そやけども実際、僕は

ここのこと忘れてるんで。書いた時は。いま話きいて思い出したくらいなので。

それがぜんぜん食い違っているんやろうなって。



――なるほど……そのあと下がっているのが、近畿地方に帰られた頃ですね。



夫さん

地元に帰りたいと彼女が言い出して、「帰らへんのやったら私も別居する」

って言ってたんですよ。当時。で、パニック発作も含めて、ちょうど僕も仕事が

終わるっていうことで、帰ることになるんですけども、でもそこが、

これくらい落ちてたんやないかな、と。もう別居まで言われてたので。


妻さん

その頃に、主人の同僚の奥さんが自殺してるんですよ、うつ病で。

で、それが怖くって、自分もいつ高速乗ってるときに、ドアを開けて降りたいって

いうのがすごい強い時期があって、その人と同じになるかもしれへんとおもって、

それやったら、死んでしまうくらいやったら地元に帰って、体調整えて、

この人とは別居しようかなと。



――地元の近畿地方に帰った、2010年ごろの評価はぴたっと一致していますね。



――そこから妻さんは、農作業もあって調子が戻ってきていたそうですが、夫さんは「妻さんの幸せ度は徐々に下がっていっていたのでは」と考えておられたようです。



夫さん

僕が病気したんがあったんですけど、それ以上に、妻の農業の仕事でね、

なんかいじめみたいなん受けてたって聞いてて、なんか毎日毎日、

仕事行くの辛そうやなぁ、とおもてたんで。


妻さん

色々あって思い出したくもないくらい、精神的には追いつめられました。

それでも4年、頑張りましたけどね。


夫さん

大変そうに見えたのが、このラインです。

毎日帰ってくるたびに愚痴ってたので、ああもうやめたいんやなぁ、

明日やめるんか、明後日やめるんかなぁ、みたいな感じやったんで。



――ただ、幸せ度は、このグラフではあまり下がっていないようです。



妻さん

辛かったんですけど……不妊のことに比べたら、という感じですね。



――なるほど……2016年から先のラインは、ほぼ同じような形をしています。



夫さん

ここは、ボディケアの仕事を初めて、希望的観測で、よくなって

いってるんじゃないかな、と。言動とか、仕事に対する意気込みとか、

熱心さが上がってるんやろな、という感じではあります。



――なるほど……夫さんが予想したグラフを見て、妻さんはいかがでしょうか?



妻さん

思ってたほどは、ずれてなかったな。

不妊については、びっくりしたけどね。


夫さん

うーん。多分ね、男と女の価値観があるんやろうな、っていうのが、

ここに出てるんかな、っていう。やっぱり、彼女、というか女性としては、

ここが問題やったとは思うんですけど、子供に対するリアルな欲求みたいなのは、

たぶん、違いがでてくるんやろうな、と。


――なるほど……それでは改めて、妻さんにお聞きしたいのですが。

ここまで幸せグラフを振り返っていただいて、<妻さんにとっての、人生の幸せ>とは、

なんでしょうか?



妻さん

難しいですね……

もしあたしが不妊症じゃなくて、子供ができてたら、いま10代半ばの子供が

いてるはずなんですよ。たぶん私、その子に愛情を注いでて、

何もない平坦な人生、専業主婦で終わってたはずです。


パートとか行ったかもしれないけど、子供優先だったと思います。

だから、それがもう私の転機なんで、そこから、がらっとかわってますね。


この人がうつ病になった可能性はどうなんやろう、わからないですね。

夫も、子供ができてたら安定した仕事についてたと思うんですね。

自分の好きな趣味とかにこだわるんじゃなくて、全然違う仕事でも、

どっかに就職とかしてたんかな、と思うんですけどね。



――お話をお聞きしてきて、妻さんの幸せの基準として、<家族>という軸が

あるのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?



妻さん

……そうですね。

たしかに私は、家族愛が異常に人より強いですね。



――結婚するモチベーションも、早く家族がほしい、ということでした。

お子さんを持つことが叶わないかもしれない……叶わない、となり、パートナーの夫さんが

苦しんでおられる時代があり……ご自身が辛くても、幸せグラフは下がっていません。



妻さん

気はってるんでしょうね。無意識にね。



――でも、ご家族が苦しんでいると、幸せ度が下がる。



妻さん

うーん、そういう傾向にあんのかな。自分でもわからへんけど、

家族に対してはすごい執着があるなとは、いま思いましたね。

たぶん母親が専業主婦で、兄弟も多くて、それが当たり前で育ってるので、

家族の絆がめっちゃ深い……


いまはもう結婚して疎遠になりましたけど。

付き合ってた頃に、家に遊びに来てた主人が気味悪がるくらい

仲いい家族だったんです。弟が私に抱きついてきたり。


それを見てるからかな、自分でもそういうのをやってみたいと

いうか、それで育ってるから、当たり前のことをしたい、ってなってんのかな。

それが、思ったよりも難しい、叶わない、ってなって、

「あれ?」ってなったんかな。……かな?(笑)


……あと、私が重い体引きずってでも家事をやってる姿は、この人からすると

不思議らしいんです、寝とけばいいのに、って思うみたいで。



――<家庭>がちゃんとしている、よりよい状態になっていることが、妻さんにとっての

幸せなんですね。たとえ自分が辛くても、家庭を守れることが幸せである。



妻さん

自尊心なのかもしれないです。

朝起きて、弁当つくって、掃除して、

洗濯してから仕事行って、労働して帰ってくる。


自分のプライド……プライドっていうと

ちょっと大袈裟やけど。それがなくなったらたぶん、

自分じゃなくなるのかもしれん。




 

その⑥へ、つづきます。


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