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【特集取材】うつサポートは「搾取」か、「献身」か? ④

◆④:この人が怖い、この人から逃げたい◆





妻さん

……で、悩んだあげく、有名な医大に、ほりこむことになって。

それで借金がさらに膨大になったりとかが、あったんですけど、

よそ様に危害を加えるくらいだったら、電気ショック、

電気けいれん療法を受けてみるか、っていうのをお医者さんから聞かれて。



――全身麻酔をした状態で、頭部を電気で刺激する……副作用で、記憶障害がでる可能性もある治療法だと、聞いています。



妻さん

記憶は飛ぶけど、うつ状態からは脱する可能性が高いから、そっちに賭けますか、

とお医者さんに言われて、私はもう、賭けますと、すぐ言ったんですけどね。


そのころ、私が彼を精神病院に入れたことによって、

「こんなとこ入れやがって」って、恨まれてて。その時の夫の目つきが、

いまだに忘れられない。「僕はそんなにひどくない、こんなとこいれやがって」

って、ほんまに恨んでました。最終的には、おとなしく入院してくれましたけど。


で、先生としても電気けいれん療法は、最終手段として

とっておきたかったんでしょうね。その療法をする直前に、

「試してみたい薬があるのでちょっと試して様子みてみましょうか」

という話になって。で、飲んだら安定したんよね、一気に。

で、電気けいれん療法は中止になった。



――薬があうようになって、ぐんぐん調子が良くなったんですね。今の2018年には、だいぶ復調された。



妻さん

ただ、すでに私は離婚を考えてたので、すぐ出ていけるように

断捨離とか考えてたんです。で、今借りてる家が家主が私なんですよ。

この人、収入ゼロやったんで。


やから、実家に帰るかって言ったけど、

「帰れへん」て夫は言うし。わかれて別居しよかって言ったら、

「金出してくれたら出て行くわ、でもそんな金、出されへんやろ」て。

そんなん言ったこと、覚えてないやろ?


夫さん

…………



――この時期は、夫さんの記憶が曖昧なんですよね?



妻さん

私が言ったことを覚えてない。

ほんまに録画しといたらよかったと思うわ。うん。



――そこから2018年は、幸せ度が80まで上がってきています。



妻さん

その頃、この人にとったら家賃払うのがプレッシャーやったんですよ。

家賃払うために、稼がなあかん。妻を養わなあかん。

「結婚さえしなければ、僕はこんな人生歩まんかったんかな」

ってぽそっと言って。ああもうダメだと。


「こんだけサポートしてんのに、なんもわかってへん、

じゃあ別れよう」って言って、準備を始めたのが、最近ですね。

私の目標が、リラクゼーションの店を出す、って切り替わった瞬間に、

イライラしなくなったというか。目線が変わったというか。


この人じゃなくて、この人を見ないというか。客観視するようになって、

イライラはするけど、なんやろう……なんて言ったらいいんかな……

目標を変えたことによって、自分の考えも変わってきて、積極的になり始めて。


図書館に通って、人の健康について調べたりするようになったりもして。

ボディケアを通して、うつの人を元気にするサポートができるって、

3年間、たくさん味わわさせてもらって。医療行為ではない、

リラクゼーションを目的としたものなんですけどね。



――お仕事を通して、うつの人をサポートできると、実感されるようになったのですね。



妻さん

お客様の中には眠りが浅い、気分がすぐれない、とか、

ストレスからくる体調不良を抱えてる人が多くて。

そういう人にボディケアをすることで、笑顔になって帰っていってもらえる。

そこに、醍醐味を感じたんです。


ボディケアをしてると、お客様が何も言わなくても、

心が疲れてるのを感じとれるようになってきて。

それは、うつ病の主人をボディケアしていたからでもあると思うんです。


私もともと、メンタルの弱い人、うつ状態の人を感知しやすいんです。

身内に精神疾患の当事者がいて。親族にも、それが原因で亡くなってる者も

いてるし。主人もうつ病だし、アンテナはってるつもりはないのですが、

わかってしまうというか。


私の経験ですが、体の血行が悪くなると、イライラしたり

ネガティブ思考になったりしてたのが、リラクゼーションを受けることで

心身共に楽になるんですね。


あ。私、リラクゼーションのお客さま歴が長くて(笑)

受けてきたからこそ、実感があるんですよ。

血行が良くなると、心が軽くなる。


「心のケアは難しい。

でも、体のケアをしたら心が少しでも軽くなるのではないか」って、

その思いは昔から変わってません。私はリラクゼーションによって、

心が疲れている人をサポートできたら、と思ってます。

これもある意味、 < うつサポ > ですよね?



――はい、もちろんそうだと思います。



妻さん

主人にボディケアをすると、痛がって、あんまり気持ち良くないっていうから、

始めは自信がなかったんですけど、お客様の反応を見て、

変わってきましたね。考え方が。


子供もできひん自分に、何ができるかって言うたら、

そういう人たちを元気にしてあげれたら嬉しいなと思って、店を出せたらなと。


そうやって、私の心の傷が完全に癒えるまで、あと3年かかるんです。



――3年……と、いいますと?



妻さん

主人が覚えてない、うつをサポートし続けたこの5年間は地獄の5年間やって。

「5年に渡って傷つけられてきたことは、同じ時間が経たないと

完全には癒えないよ」とカウンセリングの先生に言われたんで。


5年経つうちに、プラマイゼロっていうか、じゅくじゅくやった心の傷が

かさぶたになってきて、少しずつ治っていくであろう、と言われています。


最近やっと、辛かった頃のことがフラッシュバックしなくなってきたんです。

前はフラッシュバックにうなされてて。この人の顔を見るのも、怖かったし。



――夫さんを、怖いと感じておられたのですか?



妻さん

怖い。この人が怖い、この人から逃げたい。って思ってましたね。

この人が目を釣り上げて怒鳴り散らした時とか、パニック発作おきましたし。

そんな日々が5年も続いて、いつの間にか、献身が搾取になって、

搾取されてるという気持ちが、憎悪に変わっていったんです。


決定的に搾取されてる、って感じるようになったのは、

「俺が悪いんじゃない、社会が悪いんだ、俺が稼いできたから、

失業保険がもらえてるんだ、だから、失業保険は俺の給料だ」

って主人が言ったんです。そのことが決定的でした。


もちろん雇用保険っていうのは、傷病手当とかもらえるための保険では

あるけれど、給料ではないと思ってたんで。自分は働かないけど、

それなりの額を確保してるんやから、文句言われる筋合いはない、

みたいなことを言われたりとか。


「今こんな苦しい状態は、結婚しなければ楽になれるのかな」とか。

病気が原因で出た言葉やけど、ぜんぶ私の記憶に入るんです。

夫はもうその頃の「わぁーっ!」となったことは、覚えてはらへんのですけど。


一度は、「この人とは1日、1秒たりとも一緒におられへん」というとこまで

いったんですけど、だんだんこの人も家事をするようになったりして。

まるっきりできひん、亭主関白な人やったんやけどね。

そうやって、変わり始めてきて。


カウンセリングの先生も、結論を出すのが早すぎると。

「別れるんやったらいつでも別れられるし、あなたは子供ができなくて、

ほかの伴侶も見つけるつもりもないのであれば、あと3年くらい待ったらどうや、その間に開業の準備とかしたらどうや」みたいな。

そう簡単に開業できないですけどね、お金が大変なんで。



――なるほど……そうやって現在に至る、という感じでしょうか。

色々と踏み込んだお話を聞かせていただいて、本当にありがとうございました。

……夫さん、いかがでしたでしょうか?




夫さん

……ひどいことになってるなぁ……




――…………




妻さん

でもそれが、被害者と加害者の差というか……


夫さん

いや、わかってるよ、わかってるよ。

なんかね。すごくね……人でなし、みたいなことやってたね、という……


妻さん

そうね……





 

その⑤へ、つづきます。


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