【特集取材】うつサポートは「搾取」か、「献身」か? ⑩


これより前の記事は、こちら。



①:「私はうつの夫に、人生を搾取されている」

②:苦しくても、楽しかった

③:もうそろそろ離婚かな

④:この人が怖い、この人から逃げたい

⑤:自尊心なのかもしれない

⑥:ぜんぜん辛くない

⑦:一番大事なものやから

⑧:違和感を感じていた

⑨:「病気を治すのがいまの僕の<仕事>なんだ」




◆⑩:<献身>の人◆



――今回、ご夫婦の歴史についてお話を聞かせていただいて、「お二人はすごく似てる人だ」と思ったんです。事前取材のとき、妻さんが


「周囲からなんで夫婦やってんの、って聞かれて、答えられないことが多かった。いまも、なんで夫婦やってるんか、よくわからない」


と言ってたのが印象的でした。


「なんで今回、こんな取材を受けようと思ったのか、自分でも、よくわかっていない」


とも、おっしゃられていました。……でも私は、このグラフを見て、それらの問いの答えが、わかったような気がしたんです。



私は、「お二人は本質的に<献身>の人なんだ」と思ったんです。自分がどれだけ

傷ついても、他人に貢献しつづけられる強さと優しさを持っている人だ、と。


妻さんは、不妊治療を通してお子さんや、夫さんのために……夫さんは社会のために、

体と心がボロボロになって、動かなくなる直前まで、我が身を忘れて、献身し続けられる。そういう心の形を根底にもっていると、お互いに理解してるから、お二人はパートナーとして一緒にいるのではないか、と思ったんです。




妻さん

……そうなんかな?(笑)


夫さん

そうなんですか?(笑)


妻さん

わかりません。(笑)自分のことは。




――そうでなかったら、お二人は今日、わざわざ関西から、この取材を受けるために

東京まで来てくれていない、と思うんです。うつサポの理念に共感していただいて、

「うつのサポートで困っている人に、なにかできることがあるなら」と思ってくれた

からこそ、わざわざ来てくれたはずです。

……いきなり私から、壺を売りつけられる可能性もあったわけですよ(笑)




夫さん

安いんなら、買いますけど?(笑)




――(笑)……ただ、<家庭>が幸せの基準だった妻さんは、お子さんが望めなくなって。そして、病に苦しんでいる夫さんを支えるうちに、疲れ果て、いつしか恐怖や、

憎しみを感じるようになり、理想としていた家庭がどんどん失われていきました。


一方、夫さんは<仕事>……社会に献身することが喜びだったのに、それが奪われてしまった。お二人にとって、いちばん大事なもの、尊厳が傷つけられてしまう出来事が起こった。



……でも、いまお二人は、役割を交換しておられる、と思ったんです。<家庭>と<仕事>ということを。


妻さんは、ボディケアを通して、他人を助けるという、むかしは夫さんが追いかけていた

幸せに気づいた。夫さんは、仕事一筋だった人生を方向転換させ、家庭の絆を

取り戻したいと思っている。



……お二人が最初に欲しかったものは失われてしまったかもしれないですが、

お互いの役割を交換することによって、また新しい<一緒にいる意味>を、

可能性を、もがきながら、探しておられるんじゃないかと、私はそう思ったんです。




夫さん

……そうなんかな?


妻さん

うーん。そうだと思うよ。……ただ、もがき方がお互いに違うから、

<私だけ>が、<僕だけ>が、苦しんでるのに、なんで助けてくれへんねや、と。

それで、なんで一緒におんのやろうか、みたいに、思うようになってしまって。


夫さん

お互い言わないからね、そういう弱みを……


妻さん

言うようには、してるつもりなんやけどね……



妻さん

……でも。これ、献身と搾取が、すこしずれてきません?


夫さん

……そう。搾取は、どこにいったんやろ?


妻さん

献身は出てきたけど、こんどは搾取が消えちゃったなと……(笑)



――確かに、そうですね。<搾取>がまだ、話せていない感じがします。



妻さん

私、ツイッターでも発信してるんですけど、配偶者、旦那さんがうつで、奥さんが

健康な方が、私のツイートを見てたくさん「いいね」をくれたことがあって。


うつの夫から、「もっと愛情をくれ、もっとくれ。

僕は病気だからもっとほしい、いたわってよ、甘えさせてよ」

と言われてるように感じる、と。


けど、そうするとこっちが疲れちゃう。

だから、サポートする側にもサポートが欲しい、って内容のツイートをしたら、

いろんな人にすごく共感されたんです。


私はやっぱり、夫に搾取されてきたって、すごく感じてます。



夫さん

…………



――……そうだと思います。これはやっぱり、「お二人はすごく献身的な人だ」という、

美談だけで解決する話ではないと思っています。


少し、私が今日まで考えてきた、「うつサポは搾取か、献身か?」ということについて、

お話しさせていただければと思うのですが。



……私は、悩んだらいつも言葉の意味を調べてみるようにしています。

グーグルで調べたところ、献身と搾取は、言葉の意味としてはよく似ているのですが、

自主的にやっているか、他人にやらされてるか、という違いがあるようでした。



搾取:《名・ス他》しぼり取ること。特に、資本家・地主等が、労働者・農民等の労働に対し、それに価するだけの支払いをせず、利益をわがものにすること。



献身:《名・ス自》一身をささげること。自分の利益をかえりみずつくすこと。自己犠牲。




うつになったパートナーをサポートすることは、もちろん自分の意思でやっていると

思います。でも、「病気がすぐに治ってサポートしなくて済むのなら、したくないよ」

というのが、本音だと思うんです。ただ、現実はそうではくて、大切な人が苦しんでいる

なら、絶対に力になりたい、サポートしたい、と感じると思います。


これを考えていくと、うつサポは、<自分の意思があるような、ないような、非常に曖昧な感情をモチベーションの土台にせざるをえない>んじゃないか、と思ったんです。


うつサポや介護は、ある意味、<時には搾取でもあり、時には献身でもあり、日々、

その間を揺れているもの>なんじゃないか、というのが、今日の取材までに

私が考えてきたことです。これはまだ、答えは出ていないので、考え続けています。




……そして、そもそも夫婦や、人間関係は、貸し借りしあわないと成立しないものです。

本当は、常にフィフティ・フィフティの関係であれば平和ですが、現実的に不可能だと

思います。能力も、パーソナリティも、環境も違うのが当然です。


妻さんは、耐えられないような日々を耐え続けて、憎むところまで耐え忍び、現段階で

妻さんは「夫に貸しがある」と思っている。それは、ある意味、当然の感情だと思います。そう考えることは、むしろ自然だとさえ思います。




ただ、夫さんのお話を聞かせてもらって、夫さんも「借りがある」と思っておられるのではないかと。そうやって、「貸しがある、借りがある」とお互いが思っておられるなら、

関係を続ける価値がある、と思うんです。


「借りっぱなしじゃなく、いつか返すから」って、信頼がまだ続いているならば。

……ただ、これ以上は貸せないよ、信頼できないよ、っていうラインもあるとは思います。



では、信頼し続けていくための手がかりとして、なにがあるんだろう、と考えたときに、今回のグラフに、私は希望を見つけたんです。それに気づいたとき私は、感動して、ちょっと泣きました。(笑)




夫さん

え……?(笑)




――折れ線グラフを見て、ちょっと泣いたことってありますか?(笑)

私はそれに気づいた時、「こんな美しいグラフがあるんだ」と思ったんです。

それが、これなんです。





その⑪へ、つづきます。




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